- vol.6 - ロウイングとボートの挙動

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SRDは、ドライブ中の船体の沈み込みを、既存システムより小さくする。船体の沈み込みが小さくなると、濡れ面積が減少し、水から受ける推進抵抗が減るので、SRDは既存システムよりエネルギーロスの少ないロウイングを可能にする。


Part1 SRDと既存システムが及ぼす船体の挙動の違い

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R&DレポートVol.5では、シングルスカルでレース状況に近いストロークレイト30(以下SR30)で漕いだ時のピッチングの変化パターンの違いが、SRDと既存システムのストレッチャーの機能の差異に起因することを報告した。
本レポートでは、同じ漕手がSRDと既存システムが装着されたシングルスカルをレース状態に近いSR30で全力漕した時のピッチングと船体中央部の鉛直方向の変位(以下ヒービング)から、SRDと既存システムが及ぼす船体の挙動の違いについて説明する。
尚、図1のように母指球(中足趾節関節)部とシート座面の段差を表す母指球下がりが、SRDの方が既存システムより1.5(cm)小さかったこと、ストレッチャー角度が大きかったこと以外、インボード、アウトボードを含むリギングの要素は、SRDと既存システム間で同じであった。

ピッチングと鉛直方向の加速度を計測するジャイロセンサーをシングルスカルに装着した。
この場合、ジャイロセンサーは、図2のように陸上でガンネル部が全長全幅方向とも水平になるよう艇を固定し、漕手のロウイング運動に支障にならない船体中央部付近(以下船体中央部)に固定した。

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この水平状態を図4中段のグラフ上のピッチング0(度)とし、図3のように船首部が沈む時を正、船尾部が沈む時を負のピッチングとした。船体中央部の鉛直方向の変位を表すヒービングは、ジャイロセンサーが出力する鉛直方向の加速度信号を、1 ストロークごとに2階積分して算出した。

図4上段は、SRDと既存システムで漕いだ時のシートスライド,オール振り角の典型的な変化パターンを表している。この図から見られるように、シートスライドとオール振り角の変化パターンの振幅と位相がSRDと既存システム間でほぼ一致しており、キャッチ,ドライブ,フィニッシュとフォワードの一連の動作に差がないことがわかる。また、ロウイングを注意深く観察してもSRDと既存システム間で漕手の運動パターンの違いを見出すことは難しかった。

既存システムでは、フォワードでシートが船尾方向にスライドを開始した時点②で、約+0.2(度)③の船首が沈むピッチングをしている。そして、船尾が沈むピッチングが始まると④、船体中央部が上がり始め、SRDより最大1.2(cm)⑤高くなる。実験で使用した艇の全長は760(cm)であった。船体中央部を中心に、船尾先端部が沈む0.2(度)のピッチングが発生した場合、船体中央部は約1.3(cm)浮上がることが計算により求められる。これらの事から、既存システムの1.2(cm)の浮上がりは、同時期船尾が沈むピッチングが始まるために起こっていると考えられる。

Part2 ドライブ中盤で発揮される脚伸展力

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これら船尾が沈み込むピッチングと、船体中央部が浮上がるヒービングについて、R&DレポートVol.5で次のように説明した。
漕手はフォワード終了時、靴でFSを押し、靴を折り曲げ中足趾節関節を背屈させることでスターン方向に移動する体を停止させる。
この時、中足趾節関節を背屈させる力がFSと靴底の固定部を支点にしたスターンを沈み込ませるようなモーメントになり、スターンの沈み込みの原因になっていると考えられる。
この船体中央部の浮上がり後、ドライブ開始に伴ない船体中央部は急速に沈み込み、ドライブ中シートの船首方向へのスライドが終わった時点⑥で船体中央部は約1.5(cm)⑦沈み込む。

SRDの場合、ドライブ開始から脚伸展によってシートスライド幅を使い切るまでのヒービングの変化パターンは、既存システムと以下の点で異なる。ドライブ開始直後、オール振り角-55(度)⑧(図4のC)付近で最も船体中央部が沈み込み、その後シートが船首方向に行き切るまでほぼ直線的に浮上がり既存システムより、明らかに船体中央部の沈み込みは小さい。
これは、同時期シートが船首方向にスライドして漕手の体重心が船首方向に移動して、船首が沈み込むピッチングが起こり、結果として船体中央部が浮上するためと考えられる。

SRDと既存システム間の、これら船体中央部のヒービングの変化パターンの著しい差異と、シートスライド,オール振り角の変化パターンにSRDと既存システム間で差がなかった事を合わせて考えると、SRDはドライブ中シートが船首方向にスライドしている局面で、既存システムとほとんど同じロウイング運動を行いながら、既存システムで発生する船体中央部が沈むヒービングを、防止する効果があることを表していると考えられる。

同様に、シートスライドが終了した後、フィニッシュまで(図4のDからE間)においても、既存システムとSRD間でシートスライド,オール振り角の変化パターンに差が見られない。また、この局面でも既存システムの方がSRDより船体中央部の沈み込むヒービングが約1(cm)大きいことから、SRDは既存システムと変わらない運動パターンで、既存システムより船体中央部が沈むヒービングが小さいロウイングを可能にしていることがわかる。

すなわち、SRDを使用することで、既存システムに較べて漕手が発揮するドライブの力のかかる方向がより水平に近づく。これによって、漕手の発揮した力はより効率的にボートの水平推進力に変換され、かつヒービングによるエネルギーロスと濡れ面積の変化を起因とする抵抗の変化によるエネルギーロスの双方を低減できると考えられる。R&DレポートVol.7ではシミレーションにより、既存システムとSRDで漕いだ時に船体が水から受ける推進抵抗を比較した結果を報告する。